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デザインの谷
プロに依頼するほどではないものの、身の回りには確かにデザインを必要とする場面があります。
私はこれを密かに「デザインの谷」だと考えています。
最近では、イオンをはじめとする大手スーパーなどでも生成AIで作成されたPOPを見かける機会が増えてきました。これまでは『いらすとや』のようなフリー素材サイトの活用が一般的でしたが、そもそもそれらのサイトも、かつてイラストや背景、フォントが収録された「素材書籍」が普及した流れの延長にあると言えます。そう考えると、今回のAI化も単なる「時代の流れ」なのかもしれません。
一方で、SNSでは野菜売り場を例に挙げ、「AIで装飾された賑やかなPOPよりも、赤い太字のマジックでシンプルに価格が書かれたPOPの方が視認性に優れている」という意見が話題になっていました。比較画像を見ると、確かにと納得しました。AIが作成したPOPは、野菜のキャラクター(どこか欧米感のあるデザイン)やリアルな料理のイラストが前面に出ており、近づいて初めて価格がわかるような凝ったデザインになっています。対して、従来の手書きPOPは大きな価格がまず目に飛び込んできて、近づくと「〇〇料理にもおすすめ!」といったコメントが添えられています。
買い物の際の視認性としては、従来の手書きPOPの方が優れていると感じます。店内の離れた場所から価格が見え、「おっ」と思って商品に近づくことも多いのではないでしょうか。しかし、視覚的な華やかさやリッチさを演出できるのはAI製の方であるため、店舗側がそちらを採用したくなる気持ちもよく分かります。こうした光景を見るたびに、「デザインとは単に飾り立てることではなく、情報を整理することなのだ」と実感させられます。
もちろん、AIに「価格をシンプルかつ目立つようにしてほしい」と指示を出せば、価格を強調したデザインを作ることも可能です。しかし、それならばわざわざAIを使う必要もないのではないか、という気もしてしまいます。マジック1本で描けるものに対して、印刷の手間やインク代をかけるかというと疑問です。
見慣れた店頭の景色も、誰でも容易に作成できるAIの登場によって、今後ますます変化していくのかもしれません。しかし、AIサービスは今後有料化が進んでいくと考えられます。現在はユーザーを獲得するために無料公開されている技術も、いずれは収益化のフェーズに入ります。ボランティアではない以上、それは当然の流れです。
現在は言わば「お試し期間」であり、それが終了したとき、「プロに依頼するほどではない『谷』のデザイン」には、再びフリー素材サイトなどが重宝されるようになるのではないかと予想しています。
少し私事になりますが、私は趣味で文芸活動を行っており、先日AIをテーマにしたSF風の小説をWeb上に投稿したところ、予想以上に大きな反響をいただきました。多くは温かいリアクションでしたが、ハッピーエンドとは言えない結末だったこともあり、AIを推進する方からは厳しい言葉も中には見受けられ、それだけ世の中の関心がAIに集中しているのだと感じています。
有史以来、人類は絵を描き、歌を歌い、文化を育んできました。AIが有料化しても尚私たちの日常に溶け込むのかどうか。デザイン史や芸術史だけでなく、人類史においても大きな岐路になるのではないかと考えを巡らせるのでした。